零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――
門をくぐった瞬間、空気が少し変わった気がした。
玄関までの石畳には落ち葉ひとつなく、すれ違う上級生はみんな姿勢がよくて、制服の襟も袖も一ミリも乱れていない。濃紺の詰襟に銀の校章、磨き上げられた靴。どこを切っても「伝統ある男子校」って感じだった。

なのに、静かすぎた。

入学の日なんだから、もっとざわざわしててもいいはずなのに、聞こえるのは靴音と時計の針の音くらいだ。廊下の空気まで背筋を伸ばしてるみたいで、俺だけが場違いに見えた。

受付で受け取った学園手帳は、校則だけで文庫本みたいな厚さがあった。

「そんなに守ることある?」

思わずつぶやいたら、受付係が淡々と言った。

「あります」

即答だった。
しかもたぶん本気だ。

歩きながら最初のページを開くと、いきなり太字で書いてあった。

『正門通過後は学園時間を採用すること』

『学園内の時計は標準時より二分早い』

『廊下は右側通行、立ち止まり禁止』

『消灯二十二時、起床六時』

『東塔、旧資料棟、地下通路、校長室前回廊への無許可立ち入りを禁ず』

「中学だよな、ここ」

横を歩いていた新入生が小声で言った。

「だよな」

俺も小声で返した。

その瞬間、先導していた上級生が振り向きもせず言った。

「私語は慎んでください」

「聞こえるの!?」

今度はもっと小さく言ったけど、たぶんそれも聞こえていた。
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