零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――
扉の外では、見張りがまたわずかに動いている気配がした。

九条が扉のすき間に目を寄せる。

「右が二歩出た。左も引かれた。今なら死角が伸びる」

「死角が伸びるって言い方、ちょっとかっこいいな」

白鷺が言った。

「感心してないで出ろ」

火村がくさびを回収し、大河内が扉を押さえる。白鷺が先に滑り、俺が赤い封筒を胸に入れて続いた。九条、火村、大河内。順番はきれいじゃなかったけど、とにかく全員出た。

その瞬間、右の見張りが振り返った。

「誰だ」

やばい、と思ったそのときだった。

白鷺が半歩前に出て、さっきとは全然違う声を廊下の反対側へ飛ばした。

「すみません、あっちに不審物あります!」

別の上級生みたいな、落ち着いた声だった。

見張り二人の視線が、そっちへずれた。

「走るな」

九条が言ったのに、火村は半分走っていた。大河内がその襟をつかんで引き戻す。俺は笑いそうになるのをこらえながら、五人で西回廊を抜けた。

曲がり角を二つ曲がって、ようやく誰もいない旧資料棟脇の小部屋に転がりこむ。

扉を閉めた瞬間、白鷺が壁に背中をつけて大きく息を吐いた。

「はー!寿命縮んだ!」

火村は床に座りこんでいた。

「入れた……ほんとに入れた……」

「お前、自分の道具が一番信用できてなかったろ」

「くさびくんは信用してた!気逸らし一号はちょっとあれだけど!」

「自白かよ」

大河内は相変わらず息も乱れていない。

「……無事」

「お前だけ散歩帰りみたいな顔するな」

でも、その一言でなんか少しだけ肩の力が抜けた。

俺は胸ポケットから赤い封筒を出した。みんなの目がそこに集まる。

「開けるぞ」

「せーののほうがいい?」

白鷺が言った。

「いるか、そんな儀式」

「ちょっとほしい」

「やめろ」

封を切った。

中には紙が一枚だけ入っていた。

ほんとに、それだけだった。

俺は引っぱり出して、全員でのぞきこむ。

白い厚紙に、でかでかと書いてあった。

『第一試験終了』

沈黙が落ちた。

少しして、白鷺が厚紙をひらひらさせた。

「これ、篠宮教官に出して終わりにしよう」

全員で少しだけ笑った。

笑ったけど、すぐに俺は笑えなくなった。

赤い封筒は軽かった。
机の上に堂々と置かれていた。
中身は終了の札だけ。

なら、あの半開きの金庫は何だ。
あの死角の三歩を滑った人影は。
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