零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――
そのとき、教室の扉が開いた。

全員が一斉に振り向く。

篠宮教官だった。

俺たちはなぜか全員、ちょっと悪いことしてる現場を見つかったみたいな顔になった。たぶんしてる。

篠宮教官は、黒板の地図と、机の上の小道具と、俺の手の中のコルク銃を順番に見た。

それから、妙にあっさり言った。

「白鷺、顔を変えろ。九条、標準時を外すな。火村、爆ぜるな。大河内、通行人を巻きこむな。有馬、人に向けて撃つな」

沈黙が落ちた。

俺が最初に口を開いた。

「……聞いてたんですか」

「壁が薄い」

篠宮教官は無表情のままだった。

「止めないんですか」

今度は九条が聞いた。

篠宮教官は少しだけ目を細めた。

「止めても行くだろう」

誰もすぐには否定できなかった。

俺も、できなかった。

「祭りは本校をただのエリート校に見せるための重要な場だ。決して騒ぎを外へ見せるな」

篠宮教官は静かに言った。

「だが放っておけば、もっとまずい」

火村がごくりと唾をのんだ。

「じゃあ……」

「私は命令しない。許可もしない」

篠宮教官の目が、零班全員を順に見た。

「ただし、零班として動け。誰か一人の独断にするな。誰か一人の手柄にもするな。責任だけは取れ」

その一言は、妙に重かった。

厳しいくせに、見捨てない。

この教官は、そういう人だった。

篠宮教官は扉を閉めかけて、最後に俺だけを見た。

「有馬」

「はい」

「撃つのは物だけだ」

「……はい」

それだけ言って、篠宮教官は出ていった。

白鷺が、扉の向こうを見ながら言った。

「気づいてるどころじゃないね」

「完全に分かってたな」

俺が言うと、九条が短くうなずいた。

「だからこそ止めなかったんだろう」
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