零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――
祭りは、何もなかったみたいに続いていた。
たこ焼きの匂いがして、綿あめが風に揺れて、子どもが金魚すくいで泣いていた。さっきまで時計台の裏で黒い封筒が飛んでたなんて、たぶん誰も知らない。
知られないまま終わったのは、きっとよかったんだと思う。
「……疲れた」
俺が言うと、白鷺がのびをした。
「いやあ、祭りっていいね。変装しても誰も気にしない」
「感想が職業病なんだよ」
火村はまだ興奮していた。
「見た!?有馬の四発!あれ、だいぶ芸術だった!」
「芸術にするなよ」
「鍵箱から鍵落としたとこ、最高だった」
大河内が紙袋を差し出してきた。
「……たこ焼き」
「いつ買ったの!?」
「封鎖の前」
「買ってから封鎖してたのかよ!」
九条が呆れたみたいに言った。
「歩きながら食うな。みっともない」
白鷺が即座に返した。
「お前だってりんご飴持ってるじゃん」
俺は九条を見た。
ほんとだった。赤いやつを持っていた。
「なんでだよ」
「火村が勝手に持たせた」
火村が誇らしげに言う。
「糖分は大事!」
「雑な栄養管理だな」
それでも、なんか少しだけ笑えた。
俺は五人で歩きながら、ふと思った。
「なあ」
俺が言うと、四人がこっちを見た。
「今日、俺一人だったら絶対無理だった」
白鷺がすぐ言った。
「知ってる」
「そこは否定しろよ!」
九条が続けた。
「事実だ」
「お前も!」
火村が笑った。
「でも俺も一人じゃ無理」
大河内がうなずく。
「……俺も」
白鷺が肩をすくめた。
「じゃあ、零班だから勝てたってことでいいじゃん」
その言い方が、妙にしっくりきた。
学園は満開の桜の中で相変わらず綺麗だった。白い校舎、整った並木、上品な静けさ。町から見れば、礼儀正しい名門男子校そのものだ。
でも、俺にはもう、それだけには見えなかった。
地下施設も、消えた名前も、黒い封筒を盗んだ先輩の言い分も、全部この中にある。
守るべきものがあるのは確かだった。
でも、その守るべきものの中に、見ないふりをしたらだめなものまで混ざってる気がした。
黒い封筒は取り返した。けど、鷹ノ宮学園の見え方はその日から少しだけ変わった。
真砂先輩の兄はどこへ消えたのかって疑問だけが、次に狙うべき的みたいに、俺の中へ残った。
たこ焼きの匂いがして、綿あめが風に揺れて、子どもが金魚すくいで泣いていた。さっきまで時計台の裏で黒い封筒が飛んでたなんて、たぶん誰も知らない。
知られないまま終わったのは、きっとよかったんだと思う。
「……疲れた」
俺が言うと、白鷺がのびをした。
「いやあ、祭りっていいね。変装しても誰も気にしない」
「感想が職業病なんだよ」
火村はまだ興奮していた。
「見た!?有馬の四発!あれ、だいぶ芸術だった!」
「芸術にするなよ」
「鍵箱から鍵落としたとこ、最高だった」
大河内が紙袋を差し出してきた。
「……たこ焼き」
「いつ買ったの!?」
「封鎖の前」
「買ってから封鎖してたのかよ!」
九条が呆れたみたいに言った。
「歩きながら食うな。みっともない」
白鷺が即座に返した。
「お前だってりんご飴持ってるじゃん」
俺は九条を見た。
ほんとだった。赤いやつを持っていた。
「なんでだよ」
「火村が勝手に持たせた」
火村が誇らしげに言う。
「糖分は大事!」
「雑な栄養管理だな」
それでも、なんか少しだけ笑えた。
俺は五人で歩きながら、ふと思った。
「なあ」
俺が言うと、四人がこっちを見た。
「今日、俺一人だったら絶対無理だった」
白鷺がすぐ言った。
「知ってる」
「そこは否定しろよ!」
九条が続けた。
「事実だ」
「お前も!」
火村が笑った。
「でも俺も一人じゃ無理」
大河内がうなずく。
「……俺も」
白鷺が肩をすくめた。
「じゃあ、零班だから勝てたってことでいいじゃん」
その言い方が、妙にしっくりきた。
学園は満開の桜の中で相変わらず綺麗だった。白い校舎、整った並木、上品な静けさ。町から見れば、礼儀正しい名門男子校そのものだ。
でも、俺にはもう、それだけには見えなかった。
地下施設も、消えた名前も、黒い封筒を盗んだ先輩の言い分も、全部この中にある。
守るべきものがあるのは確かだった。
でも、その守るべきものの中に、見ないふりをしたらだめなものまで混ざってる気がした。
黒い封筒は取り返した。けど、鷹ノ宮学園の見え方はその日から少しだけ変わった。
真砂先輩の兄はどこへ消えたのかって疑問だけが、次に狙うべき的みたいに、俺の中へ残った。