零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――
面接が終わったと思ったら、今度は体育館に連れていかれた。

「次は体力検査です」

試験官にそう言われて、俺は反射で聞き返した。

「まだあるんですか」

「あります」

そこに、さっきの猫っ毛のやつが後ろから割り込んできた。

「もう帰っていい?」

「よくない」

「即答!」

試験官は冷たかった。猫っ毛のやつは大げさに肩を落とし、俺のほうを見た。

「入学試験ってもっとこう、座って書いて終わるやつじゃないの?」

「俺もそう思ってた」

「だよな?」

そこから先は、ほんとに体力検査だった。短いダッシュ、平均台、低い壁越え、ぶら下がり、重り入りの袋運び。どれもギリギリ嫌になる手前くらいのきつさで、絶妙に性格が悪い。俺は運動が特別得意ってわけじゃないけど、店の手伝いで荷物を運んだり走ったりはしていたから、なんとかついていけた。

ただ、受験生の中には明らかにおかしいやつもいた。俺より頭一つ大きい無口な男子が、重り袋を軽々持ち上げて前を行ったときは、思わず見送った。

人って、あんな静かに怪力を出せるんだな。

息を整える暇もなく、次は観察のテストだった。

古い応接室みたいな部屋に入れられて、試験官が言った。

「三十秒で見てください」

猫っ毛のやつが聞いた。

「何をですか」

「全部です」

「雑!」

でも、ほんとにそれだけだった。

部屋には暖炉、振り子時計、絵画、本棚、傘立て、花瓶、カップが二つ。窓の鍵の向き、机の傷、椅子の置き方。俺はとにかく目に入るものを片っ端から拾った。景品棚を見るときと同じだ。どこが傾いてるか、何が引っかかってるか、落ちるならどこか。そういうのは、見る癖がついている。

三十秒後、別室に移されて、今度は問題用紙が出た。

暖炉の上の時計は何時を指していたか。
本棚で一冊だけ逆さになっていた本の色は何色か。
左側の窓の鍵は開いていたか閉じていたか。
カップのうち、欠けていたのはどちらの取っ手か。

「またかよ……」

でも、今度はさっきの筆記よりは書けた。母さんの「ちゃんと見なさい」が、ここにきて効いてくるとは思わなかった。

廊下に出ると、猫っ毛のやつが頭を抱えていた。

「暖炉の時計まで見る!?普通!?」

「三時十四分くらいだった」

俺が答えると、背後からまたあの涼しい声がした。

「三時十三分五十八秒だ」

「細かっ!」

猫っ毛のやつが振り向いて叫んだ。

「お前、秒まで見てたの!?」

「秒針が赤かったから目についただけだ」

「その“だけ”がこわいんだよ」

俺もそう思った。
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