あなたの子どもが欲しい夜 4つの愛と本能の物語
だから恒一にも、最初は必要以上の期待をしなかった。

けれど、その見立てはすぐに覆された。

「部長、この案件なんですが、先方が本当に欲しいのは数字の改善案そのものより、“その先にどう変わるか” の見通しだと思います」

初回の打ち合わせから、恒一は核心をついてきた。

私が机の上に広げていた資料を覗き込みながら、彼はペン先で一点を示す。

「ここ、データは十分です。でも理屈が正しくても、相手の不安を解消できていない。だから決裁が下りないんじゃないでしょうか」

「……続けて」

「担当役員は守りの人です。攻めの数字より、失敗したときの損失を先に潰したいはずです。だったら順番を変えましょう」

言われて、私は思わず彼を見た。

若い。三十五歳。けれど視点が鋭い。

ただ数字を読むだけではなく、人を見る目がある。

資料の完成度だけではなく、その先にいる相手の心理まで読んでいる。
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