あなたの子どもが欲しい夜 4つの愛と本能の物語
「では、お先に失礼します」

定時を少し回ったころ、恒一は私に一礼した。

「ええ、お疲れさま」

「高瀬部長も、あまり無理をなさらないでください」

「……努力するわ」

「はい。期待せずに待っています」

またふっと笑って、彼は去っていった。

残された私は、手元の資料に目を落としながら、小さく息を吐いた。

「……やりにくい男」

そう呟いたのに、なぜか口元が少し緩んでいた。

恒一が来てから、部署の空気が少し変わった。

最初はただ、仕事のできる人が一人増えた、それだけのことだと思っていた。

異動してきたばかりの人間が、すぐに現場に馴染むとは限らない。

肩書きばかり立派でも、実際には使えない人間を私は何人も見てきた。
< 12 / 67 >

この作品をシェア

pagetop