パフェの魔法:それは、あなたが望んだ物語
アヒルと王子
 ーーその夜、客室のベッドに横たわっていたパフェは、何かに弾かれたようにパチリと目を開けました。

 窓の外をそっと覗くと、お妃様が片時も離さず抱いていたあのアヒルが、誰にも見つからぬよう音もなく城を抜け出していくのが見えました。

(……やっぱりね)

 パフェは音を立てずに部屋を抜け出し、アヒルの後を追いました。
 月影が地面を青白く照らす中、アヒルは必死に短い足で丘を越え、林を抜け、長い時間をかけて歩みを進めます。

 たどり着いた先は、争い合う二つの国の境目――国境に架かる古い石橋でした。
 暗闇に沈む橋の上には、一人の青年が佇んで待っていました。

 アヒルの姿を認めるなり、彼は駆け寄って愛おしそうにその体を抱き上げます。

「ああ、会いたかった……ヴィオラ。あともう少しだ。もうすぐ、必ず君の姿を元通りにしてあげるからね」

 青年を見つめるアヒルの瞳には、切ない光が宿っていました。
 何かを必死に伝えようと嘴(くちばし)を開きますが、漏れ出たのは「クエッ」という間の抜けた鳴き声だけ。

 アヒル――ヴィオラは、己の声を蔑(さげす)むように悲しく顔を背けました。
 その様子を木陰から見つめていたパフェの気配を察したのか、アヒルがハッと顔を上げました。
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