The One
海へ行く途中でお昼ご飯を食べたり、誰もいない公園で子供のように遊んだり、食べ歩きをしたり…

幸せな時間はあっという間に過ぎていく。

寄り道をしすぎて、海に着く頃には空が少しずつオレンジ色へと変わっていた。


窓の外に広がる水平線。
さっきまでの街の景色が、まるで嘘みたいに遠くなる。


車が停まって、繋がれた手が不意に引き寄せられる。

「……っ」


先生の胸にコツンと額が当たって、ぐっと力強く抱きしめられた。


「先生?」

「運転中、ずっと我慢してた」


低く、少し掠れた声。
そのまま、私も先生の背中に手を回してぎゅっと力を込める。

「奈桜…」

耳元で名前を呼ばれて、愛しさが増していく。


「離したくない…」

胸がぎゅっと締め付けられる。

「私も…」

小さく返す。
言葉にした瞬間、余計に現実が重くなるのに、それでも言わずにはいられなかった。

先生の手が、ゆっくり背中を撫でる。

あやすみたいに、でもどこか確かめるみたいに。

身体が離れて、ほんの少し見つめ合う。
入学式の日に初めて見たあの瞳。
綺麗過ぎて、やっぱり吸い込まれてしまいそうだ、と頭の隅で感じた。


「…奈桜、顔真っ赤」

先生がクスッと笑う。
その目が、いつもよりも大人で、少しだけ危なくて。


「可愛すぎ」

「今言う?」

「今だから、言う」

私の頭にポンと手を乗せて、そのまま髪を撫でていく。



「ちょっと外歩こうか」


名残惜しそうに、先生がドアに手をかけた。

潮の匂いを含んだ風が、ふわりと2人を包んだ。


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