君に届くのは、10分の1だけ
第6章 結果待ち
律の意識が戻ったと聞いたのは、病院に着いてからしばらく経ってからだった。
先生にそう言われた瞬間、私はやっと息をした気がした。
ずっと胸の奥に固まっていたものが、少しだけほどける。
よかった。
まず最初に思ったのは、それだった。
でも、そのあとにすぐ別の言葉が続く。
このまま詳しく検査をします。
その一言で、また胸の奥が重くなる。
命に別状はない。
意識も戻った。
それなのに、何も終わっていないことだけははっきり分かった。
待合の椅子に座ったまま、私は何度もスマホを見た。
時間を確認しても、ほとんど頭に入ってこない。
画面を開いて、閉じる。
また開く。
誰かに連絡することもできない。
したところで、うまく説明できる気がしなかった。
しばらくして、律のお母さんが私のところへ来た。
「今日はもう遅いし、水瀬さんは帰って大丈夫よ」
やさしい声だった。
でも、そのやさしさが逆につらかった。
帰って大丈夫なわけがない、と思った。
けれど、ここにいても私にできることは何もない。
それも分かっていた。
私は立ち上がって、もう一度頭を下げた。
「すみません」
またそれしか言えなかった。
律のお母さんは、少しだけ首を振った。
「一緒にいてくれて、よかった」
その言葉に、胸の奥が痛くなる。
よかった、のは私のほうだった。
あの場にいて、倒れる瞬間を見て、
救急車を呼べて、
病院まで来られて。
もしあそこに私がいなかったら、と思うと、今さら遅れて怖くなった。
病院を出ると、外はもう完全に夜だった。
さっきまで点滅していた赤い光はなくて、
駐車場の白い照明だけが静かに地面を照らしていた。
ひとりで駅まで歩く。
スマホが一度だけ震えた。
クラスの子からの、明日の提出物についての連絡だった。
その普通さに、少しだけくらくらした。
世界はさっきまでと同じみたいに動いている。
でも私の中だけ、何かが止まったままだった。
家に帰ると、お母さんが玄関で驚いた顔をした。
遅くなった理由を聞かれて、私は「学校でちょっと」とだけ答えた。
それ以上うまく言えなかった。
部屋に入って、制服のままベッドに座る。
スマホを握ったまま、しばらく動けなかった。
律に、何か送りたいと思った。
大丈夫?
目が覚めてよかった。
今日はほんとにびっくりした。
いろんな言葉が浮かぶのに、どれも違う気がする。
今送っていいのかも分からない。
返事ができる状態かも分からない。
迷ったまま画面を見ているうちに、日付が変わった。
結局、その夜は何も送れなかった。
眠れるはずもないのに、体だけが疲れていた。
目を閉じると、何度もあの瞬間が戻ってくる。
筆を持ったまま少し止まったこと。
机に手をついたこと。
それから、崩れるみたいに倒れたこと。
もっと強く止めていたら、と思う。
今日はやめたほうがいいよ、と
もっとちゃんと言えていたら違ったのかもしれない、と
意味のない考えが何度も頭の中を回った。
でも、どこまで考えても、答えは出なかった。
翌朝、起きたとき、胸の奥の重さはそのままだった。
学校へ行く準備をしていても、全部が少しだけ遠い。
制服のボタンを留める手も、髪を整える動きも、自分のものじゃないみたいだった。
スマホを見る。
律からの連絡は、まだない。
病院なんだから当たり前なのに、それだけで少し怖くなる。
学校に着いてからも、落ち着かなかった。
授業は始まる。
先生が話す。
みんなノートを取る。
全部いつも通りだった。
私は前を向いて座っていたけれど、頭の半分以上は別の場所にあった。
先生にそう言われた瞬間、私はやっと息をした気がした。
ずっと胸の奥に固まっていたものが、少しだけほどける。
よかった。
まず最初に思ったのは、それだった。
でも、そのあとにすぐ別の言葉が続く。
このまま詳しく検査をします。
その一言で、また胸の奥が重くなる。
命に別状はない。
意識も戻った。
それなのに、何も終わっていないことだけははっきり分かった。
待合の椅子に座ったまま、私は何度もスマホを見た。
時間を確認しても、ほとんど頭に入ってこない。
画面を開いて、閉じる。
また開く。
誰かに連絡することもできない。
したところで、うまく説明できる気がしなかった。
しばらくして、律のお母さんが私のところへ来た。
「今日はもう遅いし、水瀬さんは帰って大丈夫よ」
やさしい声だった。
でも、そのやさしさが逆につらかった。
帰って大丈夫なわけがない、と思った。
けれど、ここにいても私にできることは何もない。
それも分かっていた。
私は立ち上がって、もう一度頭を下げた。
「すみません」
またそれしか言えなかった。
律のお母さんは、少しだけ首を振った。
「一緒にいてくれて、よかった」
その言葉に、胸の奥が痛くなる。
よかった、のは私のほうだった。
あの場にいて、倒れる瞬間を見て、
救急車を呼べて、
病院まで来られて。
もしあそこに私がいなかったら、と思うと、今さら遅れて怖くなった。
病院を出ると、外はもう完全に夜だった。
さっきまで点滅していた赤い光はなくて、
駐車場の白い照明だけが静かに地面を照らしていた。
ひとりで駅まで歩く。
スマホが一度だけ震えた。
クラスの子からの、明日の提出物についての連絡だった。
その普通さに、少しだけくらくらした。
世界はさっきまでと同じみたいに動いている。
でも私の中だけ、何かが止まったままだった。
家に帰ると、お母さんが玄関で驚いた顔をした。
遅くなった理由を聞かれて、私は「学校でちょっと」とだけ答えた。
それ以上うまく言えなかった。
部屋に入って、制服のままベッドに座る。
スマホを握ったまま、しばらく動けなかった。
律に、何か送りたいと思った。
大丈夫?
目が覚めてよかった。
今日はほんとにびっくりした。
いろんな言葉が浮かぶのに、どれも違う気がする。
今送っていいのかも分からない。
返事ができる状態かも分からない。
迷ったまま画面を見ているうちに、日付が変わった。
結局、その夜は何も送れなかった。
眠れるはずもないのに、体だけが疲れていた。
目を閉じると、何度もあの瞬間が戻ってくる。
筆を持ったまま少し止まったこと。
机に手をついたこと。
それから、崩れるみたいに倒れたこと。
もっと強く止めていたら、と思う。
今日はやめたほうがいいよ、と
もっとちゃんと言えていたら違ったのかもしれない、と
意味のない考えが何度も頭の中を回った。
でも、どこまで考えても、答えは出なかった。
翌朝、起きたとき、胸の奥の重さはそのままだった。
学校へ行く準備をしていても、全部が少しだけ遠い。
制服のボタンを留める手も、髪を整える動きも、自分のものじゃないみたいだった。
スマホを見る。
律からの連絡は、まだない。
病院なんだから当たり前なのに、それだけで少し怖くなる。
学校に着いてからも、落ち着かなかった。
授業は始まる。
先生が話す。
みんなノートを取る。
全部いつも通りだった。
私は前を向いて座っていたけれど、頭の半分以上は別の場所にあった。