真夜中にハーブティーを、あなたとふたりで
若菜は甘いものが好きだし、料理も好きだ。さっそく作り方を加藤くんに聞いている。
加藤くんは「レシピを書いてあげる」と言って、メモをし始めた。
それを若菜が横から覗き込む。なんだか、ふたり、いい感じなんじゃない?
「隼人くん、モンブランも提供するの?」
「うーん。あれは難しそうだったから、メニューには載せないと思う。まぁ、無理のない範囲で頑張るよ」
そう言うと、隼人くんはカウンターの向こうから身を乗り出し、私の耳に顔を近づけた。
「ちょっと外に出ないか?」
なぜ、と私が不思議そうにすると、隼人くんは目だけ横へ動かす。
その先にいるのは、楽しそうに話す加藤くんと若菜の姿だ。
なるほど、そういうことか。うん、と頷きそっと私たちはその場をあとにする。
扉を開けると冷たい夜風が頬を撫でた。
昼間の気温に合わせた今日の服装だと、少し寒いぐらいだ。
腕をさすっていると、ふわりと肩に温もりを感じた。
「寒いだろう?」
隼人くんがグレーのカーディガンを脱いで私に貸してくれる。
「ありがとう」
「どういたしまして」
そう答えると、隼人くんはブランコに座った。
雪の日の出会いが思い出される。
寒そうに身を縮め項垂れていた面影は、今の隼人くんにない。
「おいで」
その言葉と一緒に両手を伸ばされ、私は思わず隼人くんを凝視した。
「……えーと。どこに?」
ブランコはひとり乗りだ。
怪訝に思っていると、不意に腕を引かれた。
そのまま倒れ込む私を隼人くんが器用に抱きとめる。
「ほら、こうしたらふたりで乗れるだろう」
膝に抱えられ、お姫様抱っこのような体勢の私に、隼人くんはくっくと笑った。
その距離があまりにも近すぎて、顔が火照ってくる。
「あの、ちょっとこれは、恥ずかしいかな?」
「そう? でもこうしていたら暖かいし」
それはそうなんだけれど。
どうしても落ち着かなく身体を動かすと、ブランコがギシッと嫌な音を立てた。
「ちなみに、このブランコは何キロまで耐えられるの?」
「えーと。百十? 百二十キロ、だったかな?」
自然とふたりの目線が上へ向く。
座面からつながる鎖は、頭上の鉄棒へと繋がっている。
「……隼人くん、体重はどれくらい?」
「六十五キロぐらいかな」
百八十センチの長身にしては細身だと思う。
私の体重を足すと……微妙だ。
「やっぱり、私降りる」
身体を捻ったところを。隼人くんがさらに抱え込む。
密着する部分から、ぬくもりが伝わってきた。私の身体に回る腕は逞しい。
「隼人くんって、意外に筋肉質だよね。なにか運動をしているの?」
「たまにランニング? っていうか、いまさらじゃない。もう、何回も見ているだろう」
「そっ、そう、だけど」
広い肩幅、逞しい胸、それらを思い出して焦ってしまう。
きっと真っ赤な顔をしているに違いない。
そんな私を見て、隼人くんは目を細めた。
「香帆って、年上なのにそういうところ、可愛いよな」
「年上を揶揄うものではありません」
「えー、それは無理だな」
そう言うと、隼人くんは私の首に顔を埋めた。そうして唇を押し当てる。
「香帆がそんなこと言うから、家に帰りたくなった。加藤、そろそろ連絡先ぐらい聞いたかな」
「ちょっと、くすぐったい。加藤くん、若菜のことなんて言っていたの?」
「マロンクリーム作りながら、付き合っている男はいるのかってしつこく聞かれた。ちなみに若菜ちゃん、彼氏いる?」
「いないよ。でも、若菜はなかなか手ごわいからね」
自分の世界とペースをしっかりと持っている。そういうところが若菜のいいところだけれど、恋愛を遠ざける原因でもある。
「香帆もなかなか手ごわかった」
その言葉と一緒に口づけが落とされた。ハーブティーの香りが、身体に広がる。
ゆらゆらと揺れるブランコが不安定で、私は隼人くんの首に腕を回した。
私たちの未来がどこへつながるか、今は分からない。
ただ、こうしてずっと一緒にいられたらと思う。
「香帆、来年も、再来年もこうしていような」
甘い言葉は、ハーブティーの香りと一緒に私の心を柔らかく包む。
月灯を浴びながら、私はもう一度瞳を閉じた。
加藤くんは「レシピを書いてあげる」と言って、メモをし始めた。
それを若菜が横から覗き込む。なんだか、ふたり、いい感じなんじゃない?
「隼人くん、モンブランも提供するの?」
「うーん。あれは難しそうだったから、メニューには載せないと思う。まぁ、無理のない範囲で頑張るよ」
そう言うと、隼人くんはカウンターの向こうから身を乗り出し、私の耳に顔を近づけた。
「ちょっと外に出ないか?」
なぜ、と私が不思議そうにすると、隼人くんは目だけ横へ動かす。
その先にいるのは、楽しそうに話す加藤くんと若菜の姿だ。
なるほど、そういうことか。うん、と頷きそっと私たちはその場をあとにする。
扉を開けると冷たい夜風が頬を撫でた。
昼間の気温に合わせた今日の服装だと、少し寒いぐらいだ。
腕をさすっていると、ふわりと肩に温もりを感じた。
「寒いだろう?」
隼人くんがグレーのカーディガンを脱いで私に貸してくれる。
「ありがとう」
「どういたしまして」
そう答えると、隼人くんはブランコに座った。
雪の日の出会いが思い出される。
寒そうに身を縮め項垂れていた面影は、今の隼人くんにない。
「おいで」
その言葉と一緒に両手を伸ばされ、私は思わず隼人くんを凝視した。
「……えーと。どこに?」
ブランコはひとり乗りだ。
怪訝に思っていると、不意に腕を引かれた。
そのまま倒れ込む私を隼人くんが器用に抱きとめる。
「ほら、こうしたらふたりで乗れるだろう」
膝に抱えられ、お姫様抱っこのような体勢の私に、隼人くんはくっくと笑った。
その距離があまりにも近すぎて、顔が火照ってくる。
「あの、ちょっとこれは、恥ずかしいかな?」
「そう? でもこうしていたら暖かいし」
それはそうなんだけれど。
どうしても落ち着かなく身体を動かすと、ブランコがギシッと嫌な音を立てた。
「ちなみに、このブランコは何キロまで耐えられるの?」
「えーと。百十? 百二十キロ、だったかな?」
自然とふたりの目線が上へ向く。
座面からつながる鎖は、頭上の鉄棒へと繋がっている。
「……隼人くん、体重はどれくらい?」
「六十五キロぐらいかな」
百八十センチの長身にしては細身だと思う。
私の体重を足すと……微妙だ。
「やっぱり、私降りる」
身体を捻ったところを。隼人くんがさらに抱え込む。
密着する部分から、ぬくもりが伝わってきた。私の身体に回る腕は逞しい。
「隼人くんって、意外に筋肉質だよね。なにか運動をしているの?」
「たまにランニング? っていうか、いまさらじゃない。もう、何回も見ているだろう」
「そっ、そう、だけど」
広い肩幅、逞しい胸、それらを思い出して焦ってしまう。
きっと真っ赤な顔をしているに違いない。
そんな私を見て、隼人くんは目を細めた。
「香帆って、年上なのにそういうところ、可愛いよな」
「年上を揶揄うものではありません」
「えー、それは無理だな」
そう言うと、隼人くんは私の首に顔を埋めた。そうして唇を押し当てる。
「香帆がそんなこと言うから、家に帰りたくなった。加藤、そろそろ連絡先ぐらい聞いたかな」
「ちょっと、くすぐったい。加藤くん、若菜のことなんて言っていたの?」
「マロンクリーム作りながら、付き合っている男はいるのかってしつこく聞かれた。ちなみに若菜ちゃん、彼氏いる?」
「いないよ。でも、若菜はなかなか手ごわいからね」
自分の世界とペースをしっかりと持っている。そういうところが若菜のいいところだけれど、恋愛を遠ざける原因でもある。
「香帆もなかなか手ごわかった」
その言葉と一緒に口づけが落とされた。ハーブティーの香りが、身体に広がる。
ゆらゆらと揺れるブランコが不安定で、私は隼人くんの首に腕を回した。
私たちの未来がどこへつながるか、今は分からない。
ただ、こうしてずっと一緒にいられたらと思う。
「香帆、来年も、再来年もこうしていような」
甘い言葉は、ハーブティーの香りと一緒に私の心を柔らかく包む。
月灯を浴びながら、私はもう一度瞳を閉じた。

