無能の花嫁は余命僅かの鬼狩り当主に溺愛される
「なぜ泣く?」

「……嬉しかったのでございます。お礼を言われたことなどもうずっとなかったので……」

俺はそっと彼女の涙を指先で拭う。

「……千隼様。もしそのお身体のことで離縁を申し出られたのでしたら、お考えを改めていただけないでしょうか?」

「……それは難しい。俺はもうすぐ死ぬ」

「え? ……なにを……仰って……」

俺は腰元まで脱いでいた着物を羽織りなおすと、真白の前に正座をした。

「“鬼童子”を知っているか?」

「はい……存じております。神堂家の初代当主様が封印した鬼の大将ですね」

「ああ、だが封印は永久的なものではない。それに気づいていた“鬼童子”は初代当主に封印される前に、我が神堂家に呪いをかけたんだ」

「呪い……」

「その呪いとは鬼童子の封印が解ける代の神堂家当主が短命になる呪いだ。それが、俺だ。俺はその呪いのせいでこの黒いアザ“鬼紋”を持って生まれた」

「そ、んな……」

真白は信じられないと言った顔で口を手のひらで覆う。

「医者の見立てではほどなく俺は死ぬ。だからお前に離縁を申し出た」

俺が死ねば真白は未亡人となり、永遠にこの屋敷に留まるほかはない。國の決まりで夫を亡くした妻は生涯婚姻できない決まりがあるのだ。

それを知っている俺は自分が死ぬ前に離縁をし真白を自由にすれば、いつか彼女にまた新たな縁があるかもしれない、そう思ったのだ。

彼女には俺以外の誰かと幸せに笑って生きて欲しいから。

「何か……手立てはないのでしょうか……」

「残念ながらない。ちなみに俺が鬼紋を持って生まれたということは鬼童子の復活が近いということだが、その対策は帝都ですでに打ってきたから案ずるな」

俺は真白と婚姻の儀を交わした翌日、鬼の襲撃があり帝都に呼ばれたが、一週間ほどで全ての鬼を狩り終えた。
そのあとは俺がいなくなっても部隊が、もっといえば國が困らぬように鬼狩りの知識を俺が率いる極楽隊の隊員たちに伝授し、今後のことを事細かに指示を出してから戻ってきたのだ。  

「まぁ……そのせいで半年も家を空けることになったがな」

真白がぎゅっと唇を噛み締めてから、俺を見上げる。

「……何も知らなかったとはいえ、そのような事情があるとも知らず、妻として本当に……不甲斐ないです」

「真白が気にやむ必要などない。これは俺の問題だ」

すぐに真白が首を振る。

「なぜ二人の問題と仰ってはくださらないのですか? 私たちは夫婦ではないのですか……?」

「……」

涙を堪えながら、懸命に言葉を紡ぐ真白を見ていると、心が揺らぐ。気持ちが溢れてきてしまいそうだ。

「千隼様……」

もういっそ言ってしまおうか。真白が俺の大事な忘れられない人だから結婚したといえば、信じてくれるだろうか。

だから真白と夫婦になりたかったと言えば、どんな顔をするのだろうか。

(困らせるだけだな……)
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