無能の花嫁は余命僅かの鬼狩り当主に溺愛される
「真白……お前に言っておきたいことがある」

「なんでしょう?」

千隼様の吐息が耳元に触れて、心臓が音を立てる。

「俺はお前ずっと前から知っていた。だから妻にしたんだ」


「……え?」

「十年ほど前に偶然山で会った女の子と朝日を一緒に見たことがあってな……」

(十年前……朝日を一緒に?)

心臓が期待から駆け足になっていく。

「……もしかして……あの時、鬼から私を助けてくれたのは千隼様なのですか?」

「真白も覚えていてくれたんだな。あの日から……お前がいつも心の真ん中にいた。生まれてきた意味があると信じようと言ってくれたお前をずっと忘れられなかった」

目の前の千隼様と赤い瞳の男の子の姿が重なるって涙がはらりと溢れ落ちる。千隼様がそっと私の涙を拭う。

「真白を愛してる。生涯、俺のそばにいてくれ」

「……はい……っ」

ずっと誰かに必要として欲しかった。生まれてきた意味が欲しかった。

そしてようやく私は巡り会えたのだ。

私を愛して必要としてくれる、世界でたった一人の愛しい人に。

鬼童子の復活は近い。けれど怖くなんかない。

二人で寄り添い手を取り合えば、どんな困難もきっと乗り越えていける。


「千隼様、愛しています」

赤く優しい瞳を見つめてから目を閉じれば、優しい口付けが落とされた。



2026.3.23 遊野煌





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