気づいてなかっただけ
夜中のコンビニで、私はアルバイトをしている。

客はまばらで、レジ横の時計がやけにうるさく感じる時間帯だった。

その日、ひとりの男が入ってきた。

年齢は三十代くらい。

普通のスーツ姿で、特に目立つところはない。

ただ、妙に静かだった。

足音も立てず、棚の前に立ってじっと商品を見ている。

しばらくして、男はカゴいっぱいに商品を詰めてレジに来た。

「袋、いりますか?」

「……いらない」

低い声でそう言うと、男はじっと私の顔を見た。

その視線が妙に長くて、思わず目を逸らした。

会計を終え、男が出ていくと、店内はまた静けさに戻った。

それから数分後。

カラン、とドアが鳴った。

さっきの男だった。

「すみません、忘れ物」

そう言って、レジの奥を指差す。

「え?お客様、レジの奥には——」

「あるでしょ。さっき、そこに置いた」

男は、にこりともせずに言った。

おかしい。客が入れる場所じゃない。

「確認してきますね」と言って、バックヤードに下がった。
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