悪名高い天才外科医と一夜の艶事で愛を孕んだら──想定外の溺甘愛が待っていました
「手前の椅子におかけください」
デスクにかけ、モニター画面を見たままそう言った横顔に釘付けになる。
ビ、ビンゴ……。
この病院に兄がお世話になった偶然には驚愕した。でも、さすがにその主治医というまではないと心のどこかで思っていた。
「今回、波多野さんの手術を担当させていただきました水瀬です」
ネイビーカラーのスクラブを身に着けた彼は無表情で両親に向き合う。
「このたびはありがとうございました」
父がお礼と共に頭を下げ、母も一緒に深く頭を下げる。
水瀬先生は「いえ」と短い返事だけをした。
「搬送時の状況からご説明させていただきます。到着時すぐ、急性心筋梗塞と診断したため、緊急心臓カテーテル検査のためにご連絡差し上げました。こちらのカテーテル検査で詰まっている血管を見つけ、詰まった血中の吸引、バルーンを膨らませ──」
兄の緊急搬送後のことを水瀬先生は坦々とした口調で説明していく。
両親の病院到着を待たずに緊急のオペが行われたのは、兄の症状的に急を要する事態だったからのようだ。
手術の説明、術後の状態をモニター画面のデータを確認しながら話していくと、最後に入院の手続きについて事務的なことはこの後看護師から説明があると言う。
「なにかご質問はありますか」
「……はい、大丈夫です」
母が答えると、彼は最後にやっとちゃんと両親たちに顔を向ける。私のほうにもちらりと目を向けた。
「では、ご説明は以上となります。明日の午後には一般病棟に移れる予定ですので、面会は明日午後からとなります」
両親たちは揃って「ありがとうございました」と何度目かわからないお礼を口にする。
話は終わりと言わんばかりに再びパソコン画面に顔を向けた水瀬先生の様子に合わせたように、さっきの看護師が「この後、入院手続きのご説明をさせていただきますので、先ほどの待合いでお待ちください」と退室を促した。