本音を隠していた子 — 言えなかったほんとの気持ち —
第1話「そんなの、あたりまえじゃん」
四月の朝
少しだけ冷たい空気が残っている。
子どもたちの声もいつもより少しだけ浮き足立っていた。
「いちか先生、おはよう!」
元気な声に振り返ると、小さな手がいくつも振られている。
「おはよう。今日も元気だね」
笑って返しながら、私はクラスの子どもたちの顔を一人ひとり確認していく。
今年は年長クラス。
これまでよりも少しだけ、“最後の一年”を意識する。
――ちゃんと、向き合えるかな。
そんなことを思いながら教室に入ろうとしたときだった。
「せんせーい、ユナちゃんが泣いてるよ」
落ち着いた声が、後ろから聞こえた。
振り返ると、そこにいたのはトワくんだった。
目立つ子じゃない。でも、不思議と視線が止まる。
少しだけ大人びた表情。でも、まだ幼さの残る頬。
「どこで?」
「外で転んだみたい。こっち来て」
慌てた様子もなく、淡々と伝えてくれる。
私はすぐに外へ向かった。
園庭の隅で、ユナちゃんが膝を抱えて泣いている。
「大丈夫?見せて」
しゃがみ込むと、膝が少し擦りむけていた。
その横に、トワくんが立っている。
「ばんそうこう、いる?」
優しい声だった。
でもどこか、感情を抑えたような言い方。
ユナちゃんがこくんと頷くと、彼は小さく息を吐いて、言った。
「教えてくれてありがとう」
「……べつに。こんなの当たり前じゃん」
そっけない返事。
でも、女の子の様子をちゃんと見ている。
――なんだろう、この子
優しいって言われるのを、嫌がるみたいな。
そのとき、別の子が泣き出した。
振り向こうとした瞬間、
「せんせい、あとでいいから」
トワくんが静かに言った。
「こっち、まだ血出てるから」
はっとする。
私は思わず言いかけて、やめた。
この子、“ありがとう”って言われるの、好きじゃないのかもしれない。
代わりに、そっと頷いた。
この子、しっかりしてる。
ちゃんと周りが見えていて、ちゃんと動ける。
そう思った。
……そのときは、まだ。
少しだけ冷たい空気が残っている。
子どもたちの声もいつもより少しだけ浮き足立っていた。
「いちか先生、おはよう!」
元気な声に振り返ると、小さな手がいくつも振られている。
「おはよう。今日も元気だね」
笑って返しながら、私はクラスの子どもたちの顔を一人ひとり確認していく。
今年は年長クラス。
これまでよりも少しだけ、“最後の一年”を意識する。
――ちゃんと、向き合えるかな。
そんなことを思いながら教室に入ろうとしたときだった。
「せんせーい、ユナちゃんが泣いてるよ」
落ち着いた声が、後ろから聞こえた。
振り返ると、そこにいたのはトワくんだった。
目立つ子じゃない。でも、不思議と視線が止まる。
少しだけ大人びた表情。でも、まだ幼さの残る頬。
「どこで?」
「外で転んだみたい。こっち来て」
慌てた様子もなく、淡々と伝えてくれる。
私はすぐに外へ向かった。
園庭の隅で、ユナちゃんが膝を抱えて泣いている。
「大丈夫?見せて」
しゃがみ込むと、膝が少し擦りむけていた。
その横に、トワくんが立っている。
「ばんそうこう、いる?」
優しい声だった。
でもどこか、感情を抑えたような言い方。
ユナちゃんがこくんと頷くと、彼は小さく息を吐いて、言った。
「教えてくれてありがとう」
「……べつに。こんなの当たり前じゃん」
そっけない返事。
でも、女の子の様子をちゃんと見ている。
――なんだろう、この子
優しいって言われるのを、嫌がるみたいな。
そのとき、別の子が泣き出した。
振り向こうとした瞬間、
「せんせい、あとでいいから」
トワくんが静かに言った。
「こっち、まだ血出てるから」
はっとする。
私は思わず言いかけて、やめた。
この子、“ありがとう”って言われるの、好きじゃないのかもしれない。
代わりに、そっと頷いた。
この子、しっかりしてる。
ちゃんと周りが見えていて、ちゃんと動ける。
そう思った。
……そのときは、まだ。
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