ツンデレ男児 ― 本音を出したら、ちゃんと届いた ―

第2話 いい子すぎる子

午前の自由遊びの時間。
教室の中は、いつもより少しだけにぎやかだった。女の子たちが「いらっしゃいませー」と声を張り上げ、 おままごとをしている。 男の子たちはブロックで高い塔を作っては崩している。 その中で、トワくんは少しだけ離れた場所にいた。 一人で遊んでいるわけじゃない。でも、中心にもいない。

——あの子、いつもああだな。

全体を見ているような位置。 誰かが困れば、すぐに動ける距離。 私は少しだけ気になって、様子を見ていた。

「ねえ、これできない」

小さな声がした。 見ると、男の子がブロックの組み方で困っている。 近くにいたトワくんが、すっとしゃがみ込んだ。

「ここ、こうやるんだよ」

手を取るでもなく、やり方だけを見せる。
できるようになると、すぐに離れる。

「できた!ありがとう」

嬉しそうな声に、トワくんはちらっとだけ見て、

「できたじゃん」

それだけ言った。
その言い方が、やっぱり少しだけ引っかかる。
優しいのに、距離がある。

——なんだろう。

声をかけようとしたとき、

「トワくん!」

今度は別の子が呼んだ。

「ユナちゃんが、また泣きそう」

トワくんは少しだけ眉を寄せて、すぐに向かった。 私は追いかける。 ユナちゃんは、積み木を崩されて困っていた。 相手の子は悪気はなさそうで、ただ遊んでぶつかってしまっただけみたいだった。

「もう一回やればいいじゃん」

トワくんが言う。
でも、その声は責めていない。

「ほら、ここ押さえてたら崩れないから」

さっきと同じように、やり方だけ教える。 ユナちゃんが少しずつ落ち着いていく。 私はその様子を見ながら、胸の奥が少しだけざわついた。

——この子、すごいな。

……でも、その“すごさ”が、気になる。

「トワくん」

思わず声をかけると、彼は振り向いた。

「なに」

「さっきから、いっぱい助けてくれてるね」

「べつに」

やっぱり、同じ返事。

「すごいな、って思って」

そう言うと、トワくんは少しだけ目を逸らした。

「……そんなの」

一瞬、言葉が止まる。

「……当たり前じゃん」

やっぱり、それだった。 でも今日は、少しだけ違って聞こえた。 “言い切ってる”というより、

——“言い聞かせてる”みたいに聞こえた。

私は、言葉を探した。
でも、見つからなくて——

「……そっか」

それしか、言えなかった。
トワくんはそれ以上何も言わず、また子どもたちの方へ戻っていく。 誰かが困れば、すぐに気づいて、 誰かが泣きそうになれば、そっと寄り添う。
でも、自分から笑いに行くことは、あまりない。
そのとき、

「せんせーい!」

別の子に呼ばれて、私はそちらへ向かった。 少しして振り返ると、 トワくんが一人でブロックを組んでいた。 静かに、丁寧に。誰にも見せるわけでもなく。 その横顔は、年長の子どもにしては、少しだけ大人びて見えた。

——この子、ほんとはどんな顔で笑うんだろう。
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