ツンデレ男児 ― 本音を出したら、ちゃんと届いた ―

第17話 「まだ会えるよ」

卒園式が終わったあと。
園庭には、少しだけあたたかい空気が流れていた。
子どもたちはそれぞれ、保護者の元へ向かっていく。
笑い声と、少しの涙。
その中で、トワは立ち止まっていた。

「トワくん」

いちか先生が声をかける。

「お母さん、あっちで待ってるよ」

トワは、動かない。
少しだけ下を向いて、
それから、顔を上げた。

「……いちか先生」

「ん?」

「アイカ先生に、教えてもらった」
 
小さな声。
でも、ちゃんとまっすぐ。

「この“すき”は」
 
一拍おいて、

「……だいじょうぶだから、なんだって」

いちか先生は、何も言わない。
ただ、ちゃんと聞く。

「……だから」
 
トワの声が、少し揺れる。

「……いちか先生と、わかれるの」

「……さみしい」

 一歩、近づく。

「……だいじょうぶ、なくなるの、やだ」

その瞬間、
トワは、ぎゅっと抱きついた。
小さな体が、震えている。
声をこらえきれなくて、
そのまま、泣き出した。

「……トワくん」

いちか先生は、そっと抱きしめる。
強くじゃなくて、包むみたいに。

「だいじょうぶだよ」

やさしい声。

「入学式、見に行くから」

トワが少しだけ顔を上げる。

「入学まで、まだ来れるから……会えるよ」

その言葉に、少しだけ安心した顔。

「……でもね」

いちか先生は続ける。

「入学式が、本当に“バイバイの日”なんだ」
 
トワの顔が、くしゃっと歪む。
ちゃんと、伝える。
ごまかさない。
でも、突き放さない。

「だから」

そっと頭を撫でる。

「それまでに、いっぱい元気でいようね」

トワは、泣きながら頷いた。

「……うん」

少しして、ゆっくり体を離す。
まだ涙は止まっていないけど、
ちゃんと、自分で立っている。

「……いちか先生」

「ん?」

「……すき」
 
最後の一言。
いちか先生は、少しだけ笑って、

「ありがとう」

いつもと同じ言葉。
でも、少しだけ違う響き。

「いつでも会えるから」
 
やさしく続ける。

「園に、遊びに来てくれたらね」

トワは、少しだけ笑った。

「……うん」

そのまま、振り返って、
お母さんの方へ走っていく。
もう、止まらない。
いちか先生は、その背中を見送った。
小さくて、
でも確かに、
前に進んでいく背中。
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