ツンデレ男児 ― 本音を出したら、ちゃんと届いた ―

最終話 「もう、だいじょうぶ」

入学式
校庭には、新しい制服の子どもたちと、保護者の声が広がっていた。
いちか先生は、来賓として少し離れた場所に立っている。
そのとき、
小さな声が聞こえた。

「……いちか先生」

振り向くと、
トワが立っていた。
少しだけ背筋が伸びていて、
少しだけ、大人びた顔。
でも、
目は、あのときと同じだった。

「トワくん」

少しだけ近づく。
でも、もう抱きしめたりはしない。

「入学、おめでとう」

「……うん」

一瞬、言葉が止まる。
何か言いたいのに、
うまく出てこないみたいな顔。

「……いちか先生」

「ん?」

「……もう、だいじょうぶ」

その一言に、
胸の奥が、じんわり熱くなる。

「そっか」

やさしく返す。

「本当に最後だね」

一拍おいて、

「バイバイ。元気でね」

少しだけ笑って、

「いつでも園においで」

トワは、小さく頷いた。

「……うん」

それから、
ほんの少しだけ間があって、

「……ありがとう」

トワが言った。
いちか先生は、
ゆっくり頷いて、

「どういたしまして」

そう返した。
トワは、もう振り返らなかった。
前を向いて、
新しい場所へ、歩いていく。
その背中は、
少しだけ大きく見えた。
いちか先生は、動かずに見送る。
手は振らない。
呼び止めない。
ただ、
ちゃんと見届ける。
それが、
本当の“バイバイ”。
でも、

 ——あの子は、もう大丈夫。

そう思えた。
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