妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

蝶々亭にて

 ラスファルは王都から馬車で三日、主要街道沿いにある大きな街だ。

 領主のエンドリーネ伯爵は良く民の声を聞き、過剰に税を取り立てることもせず、基本的に善政を敷いている。

 多くの民から慕われる領主に仕えているのが『大魔導師』リュオン・クルーゼ。

 リュオンが常時結界を張っているからこの街は魔獣に襲われる心配もなく、街の門番が平和に居眠りすることもできる。

 街のそこかしこで栽培されている『ラスファルセージ』はリュオンが伯爵邸の庭で品種改良を重ねて作り出したものらしい。

 青緑色の花が美しい上に、その葉が良く効く回復薬《ポーション》の原料になる『ラスファルセージ』はこの街の重要な収入源となっていた。

 多くの物や人が集うラスファルには大小様々な飲食店があるけれど、その中でも特に料理人の腕が良いと評判なのが二階に宿屋を併設した大食堂『蝶々亭』。

 ふんわりしたオムレツに色とりどりの野菜を使ったサラダ、若鶏のグリル、まろやかな味わいのクリームシチューに焼きたてのパン。

 密かに憧れていた人気店で噂に違わぬ絶品料理の数々を堪能していると、テーブルの向かいに座るリュオンが感慨深げに言った。

「まさかセラとまた会えるとは思わなかった」
「私もよ。王都にもその名を轟かせる『ラスファルの魔女』がリュオンのことだったなんて思いもしなかったわ。魔女と言えば普通、女性だと思うもの。てっきりリュオンと同名の女性だとばかり思っていたわ」
 クルミの入ったパンをちぎりながら微笑む。
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