妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る
「いくら向こうに非があるとはいえ、やり過ぎたのよねえ……」
 遠い目をしながらオムレツをナイフで切り分けて、一口食べる。

「鳩尾を抉り抜いた一撃で止めるべきだったの。でもまだ旦那様の意識があったから、つい反射的にトドメを刺してしまったわ」

「反射的にトドメを……」
 棒読みで呟くリュオン。

「やっぱり女性と男性では地力が違うでしょう? 生半可な攻撃では反撃される危険性があるから。やるときは情け容赦なく徹底的に、全力で叩きのめせと護身術の先生から教わったのよ」

「護身術の先生?」
「ええ。実は私、レアノールの伯爵令嬢で、王子の婚約者だったのよ。夫婦生活を拒否したいときや、夫以外の殿方から強引に迫られたときに必要だということで、護身術も学ばされたの」

「どんな淑女教育だよ……」
 リュオンは呆れている。

「常日頃から旦那様の問題行動に悩まされていた侍女仲間からは拍手喝采を浴び、よくやったと絶賛されたわ。でも、意識を取り戻した旦那様はそれはもう、怒り心頭で。二度と顔を見せるなと叩き出されたの」
「…………」
 リュオンは何かを考え込むように沈黙し、やがてため息をついた。

「……とにかく最悪の事態は免れたようで何よりだ。その富豪の名前を教えてくれ」
「え」
「悪いようにはしない。セラにも侍女たちにも決して迷惑はかけないと誓うから」

 リュオンの青い目は真剣そのもの。
 瞳孔の周囲で淡く光る金色の輪が綺麗だ。

 どうしよう。
 信じても大丈夫……かな?
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