妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る
「……西区に住む豪商、ブードゥー・ラビカよ」
 迷いを振り切って、私はその名を告げた。

「あいつか……」
「知ってるの?」
 尋ねると、リュオンは苦笑した。

「ラビカ商会を知らない人間なんてこの街にはいないよ。ブードゥーはおれの主人とも深い付き合いがあるからな。帰ったら主人と相談してみる。再び被害者が出ることのないよう善処する」

「ありがとう。後に残った侍女仲間のことは心配だったから、そうして貰えると嬉しいわ」
 親しかった侍女たちの顔を思い浮かべて、心から言う。

「放ってはおけないからな」
 リュオンは微笑み、それからしばらく会話が途切れた。

 お昼時の『蝶々亭』はほとんど満席で、客のお喋りが止むことない。

 意地悪な義母の話。流行のドレスの話。南の交易都市からラスファルに向かう途中で遭遇した巨大な魔獣の話。子どもの高い笑い声。

 耳に入り込んでくるそれらを聞くともなしに聞きながら、私は皿に残っていた料理全てを平らげた。
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