初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される
彼は、怒らなかった。

眉一つ動かさず、ただ静かに私を見つめている。

「……触れないで欲しいって……」

低く繰り返すその声にも、苛立ちはない。

ため息もつかない。

ただ、事実を受け止めるように、言葉を選んでいる。

やがて、ゆっくりと口を開いた。

「君は正式に、皇太子妃になったんだ」

その一言が、胸に重く落ちる。

逃れられない現実を、静かに突きつけられる。

それでも彼は、責めるような視線を向けてはこなかった。

ただ、まっすぐに見つめたまま――

「……理由を聞いてもいいか」

穏やかな問い。

けれど、逃げ場のない問いでもあった。
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