初夜を拒む皇女は敵国の皇太子に溺愛される
「……お忘れですか」

静かな声が、夜の空気を切り裂いた。

私ははっと顔を上げる。

セリオスの視線は、まっすぐに私を捉えていた。

逃げ場のない、厳しい目。

「あなたの国を滅ぼしたのは――あの男です」

その一言が、胸に深く突き刺さる。

「……セリオス……」

思わず名前を呼ぶ。

けれど彼は、微かに眉をひそめたまま続けた。

「まさか」

低く、確かめるように。

「心を奪われてはいないでしょうね」

言葉を失う。

否定しなければならないのに。

すぐに、言い返さなければならないのに。

――できない。

その沈黙が、何よりの答えのようで。

胸の奥が、強く締めつけられた。
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