夜だけの恋人
第十二話:止めてしまった言葉
次の日の昼休み、いつもより少しだけ遅れて席を立った。午前中はほとんど仕事に集中できなかった。昨日の直人のメッセージが、ずっと頭の中に残っている。
胸の奥がざわざわしているけど、このざわざわの正体がなんなのかがわからない。
先にランチを食べていた穂香と合流して、今日もサンドイッチを頬張る。
「ねえ昨日のさー、彩の好きな人?の話、もっと聞かせてよ!」穂香が聞いてきたのでドキッとする。
どうしよう、ノアのことを言うわけにはいかないし・・・と思いながら、昨日の直人との会話を思い出す。
迷いながらも、「うーん、ちょっと、気になる人はいるかな・・・でも、恋とかではなくて・・・」と返事をすると、穂香はすかさず、「やっぱりいるんじゃん!どんな人?今どんな感じなのー!?」とすぐに聞いてきた。
「えっと・・・幼なじみなんだけど・・・」しどろもどろ答えると、「ええっ、幼なじみ!?いいじゃーん!それでそれで?」と一人で盛り上がっている。
「うーん、なんか・・・元気な時も好きだけど、元気ない時も普通に一緒にいたいってメッセージをもらって・・・でも別に、普通の幼なじみとして言ってくれただけだと思うんだけど・・・」
「ええっそれって、彩のこと好きなんじゃないの!?」と穂香がごはんを吹き出しそうな勢いで前のめりになりながら言った。
「それでそれで?彩はなんて返したの?」と楽しそうに聞いてくるので、「穂香、楽しんでるでしょ・・・」と言いながらも、「ありがとうとしか、返してない」と伝えた。
穂香は「そっかあ」と言いながら、「それで、彩はその幼なじみのことどう思ってるの?」と聞いてきた。
その瞬間、心の中にざあっと風が吹いたような気がした。
私は、直人のことどう思ってるんだろうか・・・今のこの気持ちはなんなんだろう、わからないけど、昨日直人から言われてうれしかった言葉を思い出した。
今までただの幼なじみだとしか思ってなくて、全然意識してなかったけど、この気持ちはただの幼なじみ以上のような気がした。
「まだわからないけど・・・ちょっと、意識はしてるかもしれない・・・」そう答えると、穂香は「そっか、上手くいくと良いね!彩の恋の話聞くの初めてだからうれしいよ、応援してるね」と言ってにっこり笑った。
今まで聞くばかりで、あまり穂香に自分の話をしてこなかったけど、聞いてくれる人がいるだけでこんなにうれしいんだな・・・と感じて素直にうれしくなった。いつものサンドイッチだけど、いつもより少しおいしい気がした。
退社後、駅の改札を出ようとすると、この前待ってくれていた場所と同じ所に、見慣れた姿が見えた。
一瞬足が止まる。
「・・・直人?」近づいていくと、直人もこちらに気づいて軽く手を上げた。
「彩、おつかれ」いつもと同じ声なのに、今日は少しだけ緊張しているように聞こえる。昨日のメッセージのやり取りを思い出して少し意識してしまっている自分がいた。
「えっ、なんでここにいるの?」思わずそう言うと、直人は少し困った顔をして笑った。
「いや・・・なんでって・・・彩を待ってたんだけど・・・」とうつむいて照れたように首をかきながら、「ちょっと・・・顔が見たくなって・・・」と小さくぼそっと言った。
「えっ?」思わず大きな声を出してしまって、恥ずかしくなって周りを見回した。こんな風に直人が待っていてくれることなんて初めてだった。
「仕事・・・大丈夫だったの?」
「うん、今日は早く終わったから」そう言いながら、直人は私の方を見た。いつものふざけた直人とは違って真剣な目をしている。思わず鼓動が早くなった。
少し間があいてから、直人は続ける。
「いや、昨日さ・・・ちょっと言い足りなかった気がして・・・」周りは帰る人たちの話し声でうるさいくらいなのに、私と直人の周りだけやけに静かに感じた。空気だけがゆっくりと動いている。
なんとなく何を言われるのかわかるような気がしたけど、聞きたい気持ちと、聞きたくない気持ちが同時に迫ってきていた。
「うん・・・」小さくうなずくと、直人は少しだけ目を逸らしてから、もう一度こっちを見た。
「俺さ」そこで言葉が止まる。直人がこんなに言いにくそうにするのを見るのは初めてかもしれない。胸の鼓動が早すぎてどうにかなってしまいそうだった。
「彩のこと、ずっと前からー」
周りには普通に人が歩いているのに、ここだけ時間が過ぎるのが遅いような気がする。
直人が何を言おうとしているのかわかってしまった瞬間、ノアのことが頭をよぎった。うれしいはずなのに、このまま言わせちゃいけない気がした。
「待って!」気づいた時には声が出ていた。直人が驚いた顔でこっちを見ている。
「ちょっと待って、直人・・・」その後の言葉が続かない。ただ胸の奥が苦しくて仕方がない。直人は何も言わずに、静かにこっちを見ている。怒っているわけでもなく、悲しそうなわけでもなく、ただ少しだけ困った顔で。
「・・・ごめん」直人が下を向いて小さくそう言った。
「違う、そうじゃなくて・・・」慌ててそう言うけど、何が違うのか、何が言いたいのか、自分でもわからない。頭がごちゃごちゃで全然整理できない。
うれしくないわけじゃない。嫌なわけでもない。でもー。
今直人に「好きだ」と言われたら、何かが変わってしまう気がした。
「ちょっとだけ・・・時間が欲しい」やっとその一言だけ言うと、直人は少し笑った。
「うん、わかってる」その言い方が優しすぎて、逆に胸が苦しくなる。
「全然、急がせるつもりじゃなかったし」そう言って、少しだけ目を逸らす。
「ごめん・・・」小さくそう言うと、直人は首を横に振って言った。
「謝らなくていいから」その言葉が優しすぎて涙が出そうになった。
直人が言おうとしていた言葉は、結局、最後まで聞くことができなかった。でもたぶん、もうわかってしまっている。わかってしまったのに、それをまだ受け止められない自分がいた。
胸の奥がざわざわしているけど、このざわざわの正体がなんなのかがわからない。
先にランチを食べていた穂香と合流して、今日もサンドイッチを頬張る。
「ねえ昨日のさー、彩の好きな人?の話、もっと聞かせてよ!」穂香が聞いてきたのでドキッとする。
どうしよう、ノアのことを言うわけにはいかないし・・・と思いながら、昨日の直人との会話を思い出す。
迷いながらも、「うーん、ちょっと、気になる人はいるかな・・・でも、恋とかではなくて・・・」と返事をすると、穂香はすかさず、「やっぱりいるんじゃん!どんな人?今どんな感じなのー!?」とすぐに聞いてきた。
「えっと・・・幼なじみなんだけど・・・」しどろもどろ答えると、「ええっ、幼なじみ!?いいじゃーん!それでそれで?」と一人で盛り上がっている。
「うーん、なんか・・・元気な時も好きだけど、元気ない時も普通に一緒にいたいってメッセージをもらって・・・でも別に、普通の幼なじみとして言ってくれただけだと思うんだけど・・・」
「ええっそれって、彩のこと好きなんじゃないの!?」と穂香がごはんを吹き出しそうな勢いで前のめりになりながら言った。
「それでそれで?彩はなんて返したの?」と楽しそうに聞いてくるので、「穂香、楽しんでるでしょ・・・」と言いながらも、「ありがとうとしか、返してない」と伝えた。
穂香は「そっかあ」と言いながら、「それで、彩はその幼なじみのことどう思ってるの?」と聞いてきた。
その瞬間、心の中にざあっと風が吹いたような気がした。
私は、直人のことどう思ってるんだろうか・・・今のこの気持ちはなんなんだろう、わからないけど、昨日直人から言われてうれしかった言葉を思い出した。
今までただの幼なじみだとしか思ってなくて、全然意識してなかったけど、この気持ちはただの幼なじみ以上のような気がした。
「まだわからないけど・・・ちょっと、意識はしてるかもしれない・・・」そう答えると、穂香は「そっか、上手くいくと良いね!彩の恋の話聞くの初めてだからうれしいよ、応援してるね」と言ってにっこり笑った。
今まで聞くばかりで、あまり穂香に自分の話をしてこなかったけど、聞いてくれる人がいるだけでこんなにうれしいんだな・・・と感じて素直にうれしくなった。いつものサンドイッチだけど、いつもより少しおいしい気がした。
退社後、駅の改札を出ようとすると、この前待ってくれていた場所と同じ所に、見慣れた姿が見えた。
一瞬足が止まる。
「・・・直人?」近づいていくと、直人もこちらに気づいて軽く手を上げた。
「彩、おつかれ」いつもと同じ声なのに、今日は少しだけ緊張しているように聞こえる。昨日のメッセージのやり取りを思い出して少し意識してしまっている自分がいた。
「えっ、なんでここにいるの?」思わずそう言うと、直人は少し困った顔をして笑った。
「いや・・・なんでって・・・彩を待ってたんだけど・・・」とうつむいて照れたように首をかきながら、「ちょっと・・・顔が見たくなって・・・」と小さくぼそっと言った。
「えっ?」思わず大きな声を出してしまって、恥ずかしくなって周りを見回した。こんな風に直人が待っていてくれることなんて初めてだった。
「仕事・・・大丈夫だったの?」
「うん、今日は早く終わったから」そう言いながら、直人は私の方を見た。いつものふざけた直人とは違って真剣な目をしている。思わず鼓動が早くなった。
少し間があいてから、直人は続ける。
「いや、昨日さ・・・ちょっと言い足りなかった気がして・・・」周りは帰る人たちの話し声でうるさいくらいなのに、私と直人の周りだけやけに静かに感じた。空気だけがゆっくりと動いている。
なんとなく何を言われるのかわかるような気がしたけど、聞きたい気持ちと、聞きたくない気持ちが同時に迫ってきていた。
「うん・・・」小さくうなずくと、直人は少しだけ目を逸らしてから、もう一度こっちを見た。
「俺さ」そこで言葉が止まる。直人がこんなに言いにくそうにするのを見るのは初めてかもしれない。胸の鼓動が早すぎてどうにかなってしまいそうだった。
「彩のこと、ずっと前からー」
周りには普通に人が歩いているのに、ここだけ時間が過ぎるのが遅いような気がする。
直人が何を言おうとしているのかわかってしまった瞬間、ノアのことが頭をよぎった。うれしいはずなのに、このまま言わせちゃいけない気がした。
「待って!」気づいた時には声が出ていた。直人が驚いた顔でこっちを見ている。
「ちょっと待って、直人・・・」その後の言葉が続かない。ただ胸の奥が苦しくて仕方がない。直人は何も言わずに、静かにこっちを見ている。怒っているわけでもなく、悲しそうなわけでもなく、ただ少しだけ困った顔で。
「・・・ごめん」直人が下を向いて小さくそう言った。
「違う、そうじゃなくて・・・」慌ててそう言うけど、何が違うのか、何が言いたいのか、自分でもわからない。頭がごちゃごちゃで全然整理できない。
うれしくないわけじゃない。嫌なわけでもない。でもー。
今直人に「好きだ」と言われたら、何かが変わってしまう気がした。
「ちょっとだけ・・・時間が欲しい」やっとその一言だけ言うと、直人は少し笑った。
「うん、わかってる」その言い方が優しすぎて、逆に胸が苦しくなる。
「全然、急がせるつもりじゃなかったし」そう言って、少しだけ目を逸らす。
「ごめん・・・」小さくそう言うと、直人は首を横に振って言った。
「謝らなくていいから」その言葉が優しすぎて涙が出そうになった。
直人が言おうとしていた言葉は、結局、最後まで聞くことができなかった。でもたぶん、もうわかってしまっている。わかってしまったのに、それをまだ受け止められない自分がいた。