【試し読み】お隣のハイスペ御曹司は一応、私の夫です~ビジネス婚のはずが旦那様は妻への溺愛が我慢できない~
プロローグ
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 大きな広い背中の半歩後ろをついていく。

 会社のエントランスでは、社員たちが尊敬と憧れのまなざしを向けつつ彼に頭を下げた。その中を颯爽と歩くのは、鳳凰寺凌平(ほうおうじりょうへい)。この会社『ファニブル・マネジメント株式会社』の社長だ。

 身長は一八五センチを超え、日本人離れした長い手足としっかりとした体躯を持つ。身に着けているスーツは、老舗のテーラーの一点もので、彼のためにあつらえられたものだ。それを完璧に着こなし、歩く姿はモデルも顔負けだ。

 少し長めの前髪はきちんとまとめられ、意志の強さを象徴するようなきりりとした目、高い鼻梁に、薄く色気のある唇。どの角度から見ても芸術品のような顔は、通りすがりの人ですら目を奪われるほど。

 それだけでも凡人には眩しいが、その出自もすばらしい。

 実家は『鳳凰電器株式会社』を中心とする『鳳凰グループ』の御曹司。ファニブル・マネジメントもグループ傘下の投資顧問会社だ。

 彼はグループの資産運用を一手に引き受け、しっかりと成果を出している。一族の間でもその手腕を認められており、天は二物を与えずという諺は彼には縁のないものだ。

 ぼんやりとりとめのないことを考えているうちに、エントランスから外に出た。

「花南乃(かなの)、おいで」

 急に彼は振り向いて秘書の私を呼んだ。私は半歩の距離を縮めると彼は私の腰に手を当ててぐいっと引き寄せた。

 体が密着する。私はすぐ隣にいる彼の顔を見上げると、彼もまた私を見ていた。

 至近距離にいるせいで彼の瞳に自分が映っているのが見える。

 私、この半年で随分変わったなぁ。

 自分のことなのに、他人のような感想を持った。

 これまで最低限の手入れをしていただけの髪や顔は、この半年で高級化粧品とエステや美容院でピカピカに磨かれていた。

 平凡だと思っていた自分の容姿も、手をかけるとここまで変わるとは驚きだ。

 頭の中でそんなことを考えていたが、ハッと気が付く。外から見れば会社の真ん前で、私と彼が見つめ合っている状態だ。

 一連の動きを見ていた女性社員が、黄色い悲鳴をあげたのが聞こえた。

 秘書である私がどうしてこんなに彼と近い距離にいるのか。普通に考えればありえないことだ。

「ほら、行くぞ」

「はい」

 何度も言うけれど、社長と秘書の距離感ではない。

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