原始の湖畔、サファイアの瞳
 巨大な女神の視線に耐えきれず、少年はたまらず視線を落とした。

 再び顔を上げたとき、そこにあったのは――。

 夜空に静かに佇む、ただの大きな、丸い月だった。
 張り詰めていた肩の力が抜け、少年は荒い吐息を漏らす。

(……今のは、神か)

 己の愚かさと、あまりに美しい月の悪戯に、少年は自嘲気味に、けれどどこか晴れやかな気持ちで口元を緩ませていた。

 照れ隠しのように、傍らで眠っているはずの『白』へと視線を移す。
 ――彼女は、起きていた。

 その澄んだ瞳は、先ほどまで空に浮かんでいた女神と全く同じ色を湛えていた。
 優しく、悲しく、そしてどこまでも深く……。

 彼女は、泥にまみれ、月を見上げて狼狽える少年のすべてを、逃さず、静かに見つめ続けていたのだ。

 月光に照らされた彼女の瞳の中に、小さな月が宿っている。
 少年は、逃れられない運命の重さを、その瞳の奥に悟っていた。
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