原始の湖畔、サファイアの瞳
決意
 ――やがて、その時が訪れた。
 『白』の傷は癒え、その大きな翼は、かつての輝きを取り戻して力強く広がっていた。

 飛び立つ時を迎えた彼女を、少年は複雑な思いで見つめている。
 無理に作った笑顔の裏で、引き裂かれるような寂しさが渦巻いていた。

 けれど、ここは血に飢えた狼が徘徊し、強欲な人間が槍を向ける、呪われた森の湖畔。
 自由な翼を持つ彼女を、これ以上自分のエゴで引き留めておくことなど、できるはずもなかった。

 少年は己の未練を殺し、彼女から一歩、また一歩と距離を置いた。
 そして、空を指し示すように両腕を広げ、無言の合図を送る。

(さあ……飛んでみせろ。お前の、本当の居場所へ)

 だが、『白』は動かなかった。 彼女は、夜空の深い青を溶かし込んだような、あのサファイアの瞳を少年に向けていた。

 誘うような空など見向きもせず、ただ一人、泥と血にまみれて地上に残る少年の魂を、じっと射抜くように見つめ返していたのだ。

 飛び立とうとしない『白』に、少年は悲しげに目を細めた。
 喉の奥でせり上がる嗚咽を飲み込み、もう一度、突き放すように(さあ、行け)と視線で促す。

 やがて、彼女は意を決したように翼を広げた。

「バサバサ」と重く、地を這うような力強い羽音が静寂を切り裂き、勢いを増していく。
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