黒瀬部長は部下を溺愛したい
CASE:18 なら、ご褒美……

付き合い始めて数日。まだ誰にも知られていない、ふたりだけの関係。会社では、表面上これまで通り。でも……。
(やっぱり……無理。冷静でいるの、むずかしいな……)
資料の確認に追われながらも、莉央の目は自然と慧を追ってしまう。デスクで何気なく横を通るとき。会議の移動で、廊下ですれ違うとき。たったそれだけでも、胸が高鳴ってしまう。
だけど……慧はまるで何事もなかったかのように振る舞うから。
(私ばっかり、浮かれてる……)
そんな風に思えて、ちょっぴり切なくなる。
昼休み、コーヒーを取りにいく途中。曲がり角で偶然……慧とすれ違った、その一瞬。
「……お疲れ」
その低い、小さな声が、莉央の耳元に届いた。
「……っ!」
言葉を飲み込み、振り向くこともできなかった。でも、確かに聞こえた。後ろ姿のまま、何もなかったように歩き去る慧の背中。
……たったそれだけで、胸がいっぱいになる。
(……もう、ずるい……)
顔が熱い。心臓もうるさい。でも、たったひと言でこんなに満たされる。
退勤時。エレベーターで鉢合わせたふたり……。
「今帰り?」
「はい」
微笑む莉央に、慧がそっと髪を撫でる。
「はあぁ……やっと触れられる。俺…莉央のことばっか考えててやばい」
「わ、私も!」
(慧さんも同じだったんだ!)
同じ気持ちを共有できてほっとする莉央。
「なら、ご褒美……今からちょっとだけ、甘やかしてもいい?」
エレベーターの扉が閉まりきった瞬間。静かなキスが、優しく落ちた。
To be continued