黒瀬部長は部下を溺愛したい

CASE:19 ふたりだけの時間



 ある日の昼休み直前。エレベーターに向かった莉央は、角を曲がった先で慧とばったり会う。

「……あっ」
「……よかった。会えた」

 慧は穏やかに微笑み、エレベーターホールの壁際へ莉央を促す。
 ランチタイム直前、廊下は混み合い始めていて、ふたりの距離は自然と近くなる。

「あの、誰かに見られたら……」
「大丈夫。すぐ混むし、こっちの死角、気づかれにくいから」

 そう言って、慧は莉央の手を……そっと、でもしっかりと、握った。

「……っ、ここで……?」
「ん、ダメ?」

 声は低く甘く、耳元に落ちるささやき。
 莉央の手を握ったまま、慧の親指がそっと手の甲をなぞる。
 さらに指を絡めてきて、その指先同士をゆっくり撫でてくる。

(触り方……ずるい)

 手を繋ぐより、ずっと恥ずかしい。
 なのに、逃げられない。

「莉央……かわいい顔してる」
「えっ、見てたんですか……?」
「うん、反応見て楽しんでる」

 くすっと笑う慧は、完全にいつもの余裕のある態度。
 一方、莉央は赤くなるばかりで、冷静でいられない。

「……ちょ、ずるい、です……」
「俺ね。莉央とこうしてるだけで、めちゃくちゃ癒されるんだよ。こっちの方がずるいでしょ?」
「……っ!」

 エレベーターが開く直前、慧は絡めた指をほどいて、莉央の手の甲にそっとキスを落とした。

「じゃ、いってらっしゃい。午後もがんばって」

 誰にも気づかれない、ふたりだけの時間。
 でも、指先がまだ熱くて、胸の奥がくすぐったい。
 莉央は小さくうなずきながら、心の中で呟いた。

(午後どころか……今日ずっと頑張れる気がする……)

To be continued
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