黒瀬部長は部下を溺愛したい

CASE:39 寂しかった



「帰ります」
「莉央?」
「だって疲れてるんですよね」
「そういう意味じゃ……」
「大丈夫です」

 そう言いながらも声は震えてた。

「私、平気なので」
「……」
「これくらい、何ともないですから」
「……」
「…………」 

 あ、言っちゃった。
 でも止まらない……。

「待つのも、平気です」
「莉央」
「会えなくても……平気、ですから」

 嘘。
 全部、嘘。
 全然平気じゃない。
 だけど、溢れる言葉が止まらない。

「……寂しく、ないです」

 最後の一言で。
 自分が泣きそうなのが分かった。

「……」
  
 次の瞬間。
 ぐいっと腕を引かれる。

「っ!」

 気づけば抱きしめられていた。
 強く、苦しいくらいに。

「ごめん」

 悲しい低い声が耳元で響く。

「……」
「……ごめん」

 答えない莉央にもう一度落ちる言の葉。
 今度は少し掠れていた。
 でも……違う、そうじゃない。
 こんなことを言って欲しいんじゃないのに……。

「莉央」

 抱きしめられる腕に力が入る。

「あまりにも平気な顔するから」
「……」
「気づかなかった」

 じわ、っと目頭が熱くなる。
 首を横に振るけれど。
 気づいてほしかったくせに、気づかれたくなかった。

「寂しかったんだ」

 ぽつりと慧が言う。

「え?」

 その言葉に顔を上げる。
 慧は困ったように笑っていた。

「俺も、すっげぇ会いたかった」

 その言葉は反則。

「朝からずっと……」

 あたたかな額が触れ合う。
 欲しかった温もりがそこにある。

「早く帰りたくて仕方なかった」
 
 ちゅ、っと優しいキスが落ちる。
 額に……頬に、髪に。

「寂しい時は言ってくれ」

 優しく囁くような声。

「我慢しないで欲しい」
「……」
「恋人なんだから」

 止められなかった涙が溢れる。
 情けないくらい、嬉しくて。

「……慧さん」

 久しぶりに名前で呼ぶと慧が目を細めた。

「ん?」
「……」

 黙って両手を広げる莉央。
 
「抱っこ……してください」

 言った瞬間、慧が少し驚く。
 でも真っ赤な顔した莉央を見てとても嬉しそうに笑った。
 
「いくらでも」

 そう言って抱き上げる腕はいつもより少しだけ、甘かった。
 慧の膝の上で幸せを噛みしめる。

「……本当は」
「ん?」
「寂しかったです」
「うん」
「平気じゃなかったです」
「うん」

 慧は黙って莉央の話を聞いてくれた。
 少しだけ心が晴れた気がした。

「慧さん」
「ん?」
「………好きです」
「っ!」
「……慧さん?」

 いつもなら、俺もって返ってくるはず。
 反応がなくて不安になった莉央が慧を見ると。

「あの……」
「ちょっと、今見ないで」
「え?」

 慧は手で顔を覆っていた。
 指の隙間から見える赤い頬。
 あぁ、この人はほんとに……。

「慧さん」
「??」
「大好きです」

 今日一番のとびっきりの笑顔とともに。
 莉央は慧にキスを贈った。

To be continued
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