御曹司はただの同期のはずだったのに

①一夜で崩れた距離

会議室の空気は、張り詰めていた。

プロジェクターの光がスクリーンを照らし、その前に立つ私の手のひらは、わずかに汗ばんでいる。

――このプレゼンに、私の半年間がかかっている。

営業として数字を積み上げ、現場の声を拾い、何度も企画を練り直した。

寝る時間を削ってでも形にしたこの案件を、簡単に渡すつもりはない。

たとえ、相手が東條理人でも。

「桐谷、いつもより気合入ってるな」

隣に立つ理人が、低く淡々とした声で言う。

その横顔は相変わらず余裕で、緊張なんて一切感じさせない。

「そちらこそ。肩に力、バリバリ入ってるじゃないですか」

わざと軽く返すと、理人はわずかに口元だけで笑った。

その余裕が、いちいち癇に障る。

――負けたくない。

ただそれだけの感情が、胸の奥で静かに燃えていた。

「では、桐谷さんからお願いします」

部長の一言で、私は一歩前に出る。
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