御曹司はただの同期のはずだったのに
こんな顔、するんだ。

そっと、抱きしめる。

強く。離れないように。

「……理人」

名前を呼ぶと、腕が返ってくる。

その温もりが、余計に苦しい。

こんなにも、求め合っているのに。

こんなにも、近くにいるのに。

(……私たち)

結婚できない。

その現実だけが、静かに胸に残る。

理人は御曹司で、私はただの社員で。

昼間に見た光景が、頭を離れない。

あの女性と並ぶ理人。

それが“正しい未来”。

(……分かってる)

だからこそ。このまま続けてはいけない。

抱きしめながら、目を閉じる。

温もりを感じながら。

心の奥で、静かに決める。

――終わらせる。

この人を好きだからこそ、もう、これ以上進んではいけない。
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