御曹司はただの同期のはずだったのに
手は、チェーンに触れたまま。

(……開けちゃだめ)

開けたら、終わらない。

決めたはずなのに。

理人の声を聞くだけで、心が揺れる。

「玲奈、開けろ」

少しだけ強くなる声。

その言い方に、胸が痛む。

それでも。

やっと、声を出す。

「……今日は」

喉が震える。

「自分の家に帰って」

沈黙。

ドア越しでも分かる。

理人が、動きを止めた。

「……何をいまさら」

低い声。理解できない、というより。

受け入れられない、という響き。

「会いたくないの」

それだけ、言った。

言い切る。これ以上、揺れないように。

外の気配が、止まる。何も言わない。

その沈黙が、やけに長く感じる。

(……お願い)

これ以上、何も言わないで。

そう願っている自分がいる。
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