御曹司はただの同期のはずだったのに
でも――

視線を上げた先。

理人の肩越しに、美百合さんの姿があった。

微笑みもない、無表情。

ただ静かに、私を見ている。

逃げ場なんて、どこにもなかった。

「理人さん……」

美百合さんが、ゆっくりと口を開く。

「私、愛人がいても構いません」

静かな声。

それなのに、空気が一瞬で張りつめた。

理人が振り返る。

「……はあ?」

信じられない、という顔。

「親同士の決めた結婚ですから」
淡々と続ける。

「あなたに好きな人がいようと、構いません」

揺れない口調。

その落ち着きが、逆に怖かった。

まるで、すべてを理解した上で受け入れているようで――

逃げ場を、完全に塞がれた気がした。
< 120 / 150 >

この作品をシェア

pagetop