御曹司はただの同期のはずだったのに
そう思っても、何も言えない。

私は静かに、一歩後ろに下がる。

ここにいる意味が、もうないから。

「では、失礼します」

それだけ言って、ドアへ向かう。

理人の方を、見ないようにして。

見たら、終われなくなる。

ドアを開ける。

私が小会議室を出ようとすると、背後から腕を掴まれた。

思わず振り返る。

「……理人」

強く、でもどこか迷いのない力。

「あとでゆっくり話そう」

低く落ちる声。

逃がさないように、まっすぐ見てくる。

「……うん」

小さく頷くしかなかった。

その返事を聞くまで、理人は腕を放さない。

指先に、熱が残る。

「話しても、もう……」

言いかけると、すぐに遮られる。

「とにかく、放さないから」

短く、強い言葉。

その響きに、胸が揺れる。
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