御曹司はただの同期のはずだったのに
さっきよりも、さらに距離が近い。

逃げようとすれば逃げられるのに、なぜかその場に縫い付けられたみたいに動けない。

理人が、ほんのわずかに顔を寄せる。

「拒むのなら今だぞ」

静かな声。

優しさでも、強引さでもない。

ただ、選択を突きつけるような言い方。

その言葉に、息が止まる。

拒めばいい。ここで終わらせればいい。

そうすれば、また“ただの同期”に戻れる。

――分かってる。

なのに。口が、開かない。足も、動かない。

ただ、理人を見つめることしかできない。

胸の奥が、じわじわと熱くなる。

「……私」

やっと絞り出した声は、自分でも驚くほど弱かった。

視線を逸らせないまま、続ける。

「私、ずっと……」

言葉が途切れる。

こんなこと、言うつもりじゃなかったのに。

「東條は御曹司だからって、我慢してたかも」

口にした瞬間、自分で驚く。
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