御曹司はただの同期のはずだったのに
会議室のドアが閉まり、ざわついていた空気が一気に静まった。

先に出ていった社員たちの足音も遠ざかり、廊下には私と理人だけが残る。

(……きまずい)

さっきまで人がいたのに、急に二人きりになると、どうしてこんなにも空気が変わるのだろう。

私は資料を胸に抱えたまま、足早にその場を離れようとする。

いつもなら、ここで軽く言葉を交わして終わり。

それが“ただの同期”としての、ちょうどいい距離のはずだった。

「なあ」

背後から低い声が落ちてくる。

「えっ?」

思わず足を止めて振り返った瞬間、理人との距離が思っていたより近くて、息が詰まった。

さっきまで会議室で向かい合っていた時とは違う。

逃げ場のない廊下で、真正面から見つめられると、妙に落ち着かない。

そのまま、理人が一歩、距離を詰める。

「無理してるだろ」
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