御曹司はただの同期のはずだったのに
その声に、場の空気が少しだけ緩む。

「ああああ……私の半年間が……」

思わず小さく漏れた本音に、自分で苦笑した。

「玲奈、惜しかったね」

同僚が肩を叩いてくる。

「……いつものことよ」

私は平然とした顔で答える。

負けた悔しさなんて、ここで見せるものじゃない。

そう、これはいつものこと。

私は、東條理人に勝てない。

――同期入社の御曹司。
――完璧な実績。
――揺るがない余裕。

全部、分かってる。

それでも。

私はこの男に勝たなければ、前に進めない。

「次は、負けないから」

誰に向けたわけでもない言葉が、静かに唇からこぼれた。

その瞬間。

「期待してる」

すぐ後ろから、低い声が落ちてくる。

振り返ると、理人がすぐ近くに立っていた。

さっきまでの勝者の余裕をまとったまま、まっすぐに私を見ている。

その視線に、なぜか一瞬だけ息が詰まった。
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