御曹司はただの同期のはずだったのに
理人はそれ以上何も言わず、くるりと背を向けて歩き出した。

その背中を、私は思わず目で追う。

すらりとした後ろ姿。無駄のない歩き方。

どこを切り取っても、“できる男”そのものだ。

……何度、この背中を追いかけてきただろう。

営業成績、評価、存在感。

全部、この人の少し後ろを走り続けてきた。

悔しくて、腹が立って、それでも――目を離せなかった。

「ほら、帰らないのか」

振り返りもせずに投げられた声に、はっと我に返る。

「……今行く」

少しだけ間を置いてから、そう返した。

こうやって軽口を叩き合うのも、

ライバルとして張り合えるのも、当たり前みたいに思っていたけれど。

本当は。それがどれだけ贅沢なことか、分かっている。

――だって彼は、御曹司。

いずれ、この会社の頂点に立つ人間だなのだ。
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