御曹司はただの同期のはずだったのに
取引先のビルを出た瞬間、思わず大きく息を吐いた。

「はあ……ようやく終わった」

一日がかりの訪問だった。

気を張り続けていたせいで、肩が重い。

夜の街はすでにネオンが灯り始めていて、昼間とは違う顔を見せている。

私は通りに出て、タクシーを拾おうと手を上げた。

けれど、なかなか捕まらない。

(タイミング悪いわね……)

そう思った時。

「ああ、桐谷。おまえも近くだったのか」

聞き慣れた声に、振り向く。

「……東條も?」

少し離れた場所に立っていた理人が、こちらに歩いてくる。

「今日はこの辺の案件だった」

「私も同じ。偶然ね」

短い会話。

それだけなのに、なぜか少しだけ肩の力が抜けた。

理人が軽く手を上げると、ちょうど一台のタクシーが止まった。

「一旦会社に戻るか?」
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