御曹司はただの同期のはずだったのに
でも、それを口にしていいのか分からない。

隣にいる理人は、何も言わない。

ただ、静かに立っているだけ。

その沈黙が、逆にプレッシャーになる。

選ばされている。

そんな感覚だけが、はっきりとあった。

「ねえ、たまにはいいでしょう」

公太が少し身を乗り出してくる。

甘えるような声。

さっきまでの軽さとは違う、逃がさない距離。

(……どうしよう)

断る理由はある。

でも、それをどう言えばいいのか分からない。

理人との関係を、どう説明すればいいのか分からない。

言葉が出てこない。

その一瞬の沈黙に、空気が張りつめる。

――その時。

「悪いけど」

低い声が、横から落ちた。

「桐谷がおまえと飲むことはない」

理人だった。

その言い方は、いつもと同じはずなのに。

どこか、違う。
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