御曹司はただの同期のはずだったのに
その空気に、わずかな違和感が混じる。

沈黙が落ちる。

妙に、息苦しい。

公太が、一歩だけ近づいた。

「桐谷さん」

名前を呼ばれて、はっとする。

「今日、飲みませんか?」

まっすぐな視線。

逃げ場のない誘い。

「……え?」

思わず言葉に詰まる。

「二人で」

はっきりと、続けられる。

(……二人で)

その言葉が、妙に重く響く。

理人の気配が、隣でわずかに変わる。

けれど、何も言わない。

私は視線を落として、小さく口を開く。

「ああ……今日はちょっと……」

断ろうとした、その時。

「ねえ、行きましょうよ」

公太が、さらに踏み込んでくる。

柔らかいのに、逃がさない声。

「せっかくですし」

笑っているのに、引かない。

(……どうしよう)

断る理由はある。

理人と約束している。
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