御曹司はただの同期のはずだったのに
まるで、最初から答えが決まっているみたいな言い方。

私だけが、取り残されているみたいで。

胸の奥が、じわっと痛む。

これ以上ここにいたら、全部言ってしまいそうで。

私は理人から目を逸らした。

「……もういい」

それだけ言って、背を向ける。

「桐谷」

呼ばれても、止まらない。

振り返らない。

このまま話を続けたら、きっと引き返せなくなる。

足早にオフィスへ戻る。

胸の奥が、まだざわついたまま。

怒っているのか、傷ついているのか。

自分でも分からなかった。

ただ一つだけ、はっきりしているのは。

――この関係、もう“ただの同期”じゃ済まない。

仕事が終わって会社を出た瞬間、夜の空気が少し冷たく感じた。

(……帰ろう)

それだけを考えて、足を進める。

頭の中はまだ、さっきのやり取りでいっぱいだった。
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