御曹司はただの同期のはずだったのに
理人の言葉。あの言い方。

胸の奥が、ざらついたまま消えない。

いつもなら、あの場所にいるはずだ。

――分かってる。

でも、今日は見ないようにした。

視線を逸らして、そのまま通り過ぎようとする。

「桐谷」

背後から声が落ちた。

足が止まりそうになる。

けれど、止めない。

そのまま歩き続ける。

(……今は無理)

顔を合わせたら、またぶつかる。

そう分かっていた。

「待て」

足音が近づく。

次の瞬間、腕を掴まれた。

「っ……!」

反射的に振り返る。

理人が、すぐ近くにいた。

「逃げるな」

低く、押さえた声。

その一言に、胸が強く揺れる。

「放してよ」

掴まれた腕を引こうとする。

でも、びくともしない。

「帰る場所は一緒だろ」

当然のように言われて、言葉が詰まる。
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