消せない痕 ~甘く危うく、既婚者上司と崩れる理性~
雨音に混ざる吐息
部屋のドアが閉じられる音と同時に、
私の身体は、
逃げ場を塞ぐようにドアへ押し付けられた。

彼の両手に顔を包み込まれ、
そのまま唇を塞がれる。

わずかな隙間も許さないように、
太ももの間に、彼の膝が割り込んでくる。

息を奪うような深いキス。

呼吸が乱れ、
吐息が、近くで混ざり合う。

息が……できない。

思考が溶け、力が抜けていく。

このまま、立っていられない。

彼の胸に置いた手で、
しがみつくようにシャツをぎゅっと握った。

唇が離れた時、
ふたりの息は激しく乱れていた。

彼の胸を小さく押し返すと、
かすれた低い声が落ちる。

「……止めるのか?」

羞恥心から彼の目を見られず、俯いた。

「自分から来たくせに」

甘い囁きとともに、
私の唇はふたたび、ゆっくりと塞がれていく。

シャツを握ったまま、
かすかに首を横に振る。

「……ちゃんと、がいい……です」


── 消え入りそうな声で、
俺のシャツを握りしめながら、
かすかに震える彼女に、理性がぐらりと傾く。

自分がどれだけ飢えていたのかを、
思い知らされた。

乱れた息を整えるように、
低く抑えた声で問いかける。

「……どこならいい?」

彼女は、ゆっくりと顔を上げた。

赤く染まった頬。

潤んだ視線が、言葉の代わりに
廊下の奥のドアを示す。

俺は何も言わず、
彼女の手を取って指を絡めた。

その熱に応えるように、
彼女も指を、絡み返してくる。

そのまま、強く引き寄せ
足早に踏み出した。
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