悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
プロローグ
「僕と結婚しないか?」
その言葉に、つかさは大きく目を見開いた。
頼久は表情ひとつ変えることなく、クイッとメガネを押し上げる。
「……え?」
「僕と結婚するなら、弟の事件の再捜査をしよう」
「な……っ!」
「知人の刑事に協力を仰ぐこともできる。悪くない話だと思うが」
「どうして結婚なんて、」
「君が都合のいい相手だからだ」
冷めた口調でキッパリと言い切る頼久に、つかさは唖然とした。
「全く知らない相手ではないし、パートナーとして都合がいい。僕と取引しないか?」
「取引……」
「弟を助けたくないのか」
有無を言わせぬ物言いは、つかさに拒否権などないのだと思い知らされる。
この取引に応じるしかないのだ、と。
(……彼は、本当に変わってしまったんだ)
つかさは唇を噛み締めた後、顔を上げる。
「わかりました、結婚します」
「取引成立だな」
頼久はニコリともしない。業務をこなすかのように、真顔で淡々としていた。
子どもの頃の夢は、好きな人のお嫁さんになることだった。
その相手は頼久がいいと――ずっと淡い願いを抱いていた。
しかし、現実はあまりにも空虚なものだった。
この結婚に愛など存在しない。
これは結婚という名の取引なのだ。
それでもつかさは覚悟を決めて応じることにした。
弟を救うためなら何でもすると決めたはずなのに、胸の奥に突き刺さるわずかな痛みには見て見ぬふりをした。