悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。


 祖父は左足を骨折し、全治二週間と診断された。
 もしかしたら後遺症が残り、これまでと同じように歩くのは困難になるかもしれないと言われた。

 落ち着いてから病院に警察官が訪れ、軽い事情聴取を行った。
 祖父が歩いている時に突然何者かに背中を押され、階段から転げ落ちたという。

 元々腰が悪い祖父は自力で起き上がれず、誰に突き落とされたのかもよくわからなかったそうだ。
 近くを通りかかった人に助けられ、救急車で運ばれた。


「お母さん、今日は実家に泊まるね」
「頼久くんは大丈夫?」
「うん、さっき連絡しておいた」


 結局まりえのことは伝えなかった。
 病院を出ると【落ち着いたら電話して欲しい】というメッセージがきていたので電話をした。


《もしもし、つかさか? おじいさんは大丈夫なのか?》
「もしかしたら後遺症が残るかもって」
《そうなのか……。階段から突き落とすとは信じられん。犯人が捕まればいいが》
「警察が調べてくれることになってるけど、おじいちゃんは犯人を見てないみたいなの」
《そうか。僕からもツテを辿ってみよう》
「ありがとう。今日は実家に泊まるね」
《わかった。つかさも気をつけて、何かあれば連絡してくれ》
「……頼くん」
《なんだ?》
「ううん、なんでもない。また連絡するね」
《ああ》


 やっぱり言えなかった。話せばきっと頼久は即座に動くだろう。
 そうすれば頼久も突き落とされ――いや、それ以上のことをされるかもしれない。

 これからどうすればいいのだろう。
 言いようのない恐怖と不安に苛まれ、つかさの胸は押し潰されそうだった。


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