悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。


 嫌がらせメールが届くのは嘘ではない。
 実家の電話に無言電話がくることもある。


「気にしても仕方ないけど、毎日くるとげんなりしちゃうんだよねー」


 そう言って笑うと、頼久はつかさを抱きしめた。


「無理はするな」
「……うん。ありがとう」


 本当は今届いたメールは嫌がらせメールではない。例の知らない番号からだった。


【明日夜八時一人でバー・TRUMPへ来い】
【誰かに話したら弟を突き落とす】


 更に明らかな隠し撮りと思われる芯の写真まで添付されていた。


(おじいちゃんを突き落とした犯人からだ……)


 犯人はつかさの家族構成を把握している。
 それどころかつかさを監視しているのだろうか。

 恐怖で身の毛がよだつが、頼久には話せない。
 メッセージに従い、一人で行くしかない。


「……頼くん、明日夜出かけてもいいかな」
「夜に?」
「久々に友達が飲もうって誘ってくれたの。おすすめのバーがあるんだって」
「もちろんいいが、帰る時連絡してくれないか。迎えに行く」
「もう、子どもじゃないんだから大丈夫だよ」


 本当はさりげなく行く場所を伝えようと思ったが、やめた。
 もし盗聴でもされていたら今の会話も筒抜けになる。

 もしそうなら、約束を破ったとして芯が危ない目に遭うかもしれない。


「……大丈夫だから。ね?」


 つかさは頼久にぎゅっと抱きつく。精一杯の嘘をつきながら。


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