悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
結局のところ、自分は何もできないのだと思うと無力さを呪うしかなかった。
「――そんなところでしゃがみ込んでいたら邪魔だ」
頭上から冷たい声が聞こえてハッと顔を上げると、頼久が見下ろしていた。
つかさは慌てて立ち上がる。
「ごめんなさい、失礼しました」
まさか再び会えるとは思っていなかったので、心臓がバクバクと高鳴っている。
「弟の面会か?」
「そうですけど……」
てっきりすぐに立ち去ると思っていたら、話しかけられたので驚いた。
接し方がわからず、思わず敬語で話す。
「弟の無罪を主張していると小耳に挟んだ」
「だって、無実ですから」
メガネの奥の鋭い眼光は、何を考えているのか全く読めない。
無罪判決なんて無理だと言いたいのだろうか。
「要は人殺しなんて絶対にしません。姉の私が一番よくわかっています」
何を言われても絶対に退くものか、という意思表示に頼久を見返す。
「……その真っ直ぐさ、変わらないな」
「え?」
頼久はボソリと呟いたが、つかさにはよく聞こえなかった。
「何でもない。君は弟のためなら何でもするのか?」
「もちろんです。何でもします」
キッパリと言い切ると、頼久は眉間に皺を寄せる。
「……そうか。それなら一つ提案がある」
「提案?」
「僕と結婚しないか?」